大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

静岡地方裁判所 昭和23年(行)26号 判決

原告 山本昭一 外二名

被告 名古屋郵政局長

一、主  文

原告等の昭和二十三年政令第二百一号の無効確認を求むる訴はいづれも之を却下する。

原告等の解雇処分取消の請求はいづれも之を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は(一)被告は昭和二十三年政令第二百一号は無効であることを確認せよ。(二)被告は昭和二十三年十月一日原告山本昭一同加藤哲夫に対してなした解雇処分を取消せ。(三)訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め其の請求原因として次の通り述べた。

一、原告山本昭一同加藤哲夫は清水郵便局勤務の逓信従業員であり、又全国の通信従業員をもつて組織する全逓信労働組合清水郵便局支部の組合員であるところ、被告は昭和二十三年十月一日附をもつて昭和二十三年政令第二〇一号違反並び逓信部内雇員規程を理由として右原告両名を解雇する旨夫々解雇通知を送付して来た。しかしながら右昭和二十三年政令第二〇一号は昭和二十年勅令第五四二号に基いて制定せられたのであるが、その形式からみても又実質からみても、憲法に違反した政令であつて当然無効である。

二、まづ形式の面から違憲であるかどうかをみるに、政令第二〇一号は国内法の問題として考えねばならないのであるが、そうするとこの政令は憲法第四十一条第七十三条第六号第九十八条第一項に違反するものであると言わねばならない。政令第二〇一号は昭和二十年勅令第五四二号に基いて発せられたものであるから、勅令第五四二号が前記憲法の条項に違反してすべて失効しているものとするとき、当然政令第二〇一号も無効となる。

(1)  前記昭和二十年勅令第五四二号も政令第二〇一号も国内法上の問題である。わが国が目下連合軍の管理下におかれていることは、いうまでもないが連合軍の日本管理方式は周知のように、日本政府機関が占領政策を満足に行わないと認めた場合以外は日本政府を通じて行うことになつている。そして日本政府が、わが国を統治するには連合軍の勧告と指導によつて制定せられた憲法によることになつており、日本政府が憲法に忠実に従うことが連合軍の占領政策に忠実なるゆえんとなつておる。このように憲法に違反する連合軍の占領政策はあり得ないことを考えるときは、日本政府、国会、裁判所はともに憲法に従えばよく、また、憲法に従う義務があるわけである。そして連合軍が占領政策上直接わが国に命令する場合だけが国内法外の問題とする。このような点を考えるときは勅令第五四二号も政令第二〇一号も国内法上の問題として憲法に違反するかどうかを考えねばならない。

(2)  そこで憲法第四一条によれば「国会は国権の最高機関であつて国の唯一の立法機関である」だから、新憲法実施と同時に憲法第九八条第一項により法律事項を定めた勅令その他の命令はその効力を失つたのである。

(3)  しかるに旧憲法時代の国会は新憲法実施の直前に昭和二十二年法律第七二号「日本国憲法施行の際に現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律」を制定して暫定的な措置として法律で規定すべき事項を定めた。命令は同年十二月三十一日迄その効力を有することを定めた。しかしながら、このように概括的に本来新憲法では当然その効力を失うはづの命令について新憲法実施後も、その効力を持続さそうとする右の法律第七二号自体が新憲法の精神に反し、新憲法下ではその効力を有しないものといわねばならぬ。

(4)  かりに法律第七二号が有効な法律であるとしても、法律第七二号によつてその効力を延長さすことのできるものは、新憲法に牴触しない法律を定めた命令に限られ、勅令第五四二号のような憲法の条項を無視する命令の効力を延長することはできないものであつて、勅令第五四二号は法律第七二号外の命令である。

(5)  さらに、かりに勅令第五四二号が法律第七二号によつて新憲法下に延長せられたとしても、同法律によつて勅令第五四二号は昭和二十二年十二月三十一日かぎり効力を失つたものである。なほ右の法律第七二号の「一部を改正する法律」である昭和二十二年法律第二四四号第二条の二は「前項の規定は昭和二十一年勅令第五四二号に基き発せられた命令の効力に影響を及ぼすものでない」としているが、これは勅令第五四二号に基いて、すでに発せられた命令については、国会でもその内容が明かになつているので、便宜上その効力を失わすものでないことを注意的に規定したものに過ぎず、この規定から、子の命令が生きているのだから親の命令第五四二号も生きているのだとの飛躍は許されない。

(6)  昭和二十年勅令第五四二号は緊急命令としてだされたものであるけれども、それは後に国会の承諾を得たから法律と同一の効力をもつようになつたのであり、前記法律第七二号の範囲外だというものがある。しかし緊急勅令は旧憲法第八条第一項自体によつてはじめから法律と同一の効力を確定的に有するものであり、国会の承諾は政府の責任を解除するだけにすぎず、国会の承諾により法律になるのでなく、緊急勅令はいつまでも命令であることに何らの変化もない。従つて緊急勅令第五四二号は法律で定むべき事項を規定した命令であるから当然新憲法下にその効力を持続するものではない。

(7)  かりに一部のもののいうように、勅令第五四二号が法律と同視せられるものであつたとしても、昭和二十二年五月三日新憲法の効力の発生とともに第九八条第一項の「その条規に反する」として失効したものである。法律の効力が消滅する場合にはその法律自身に消滅原因を含む場合及びその法律と牴触する国家意思が有効に成立した場合である。勅令第五四二号自体は、連合国最高司令官の支配そのものが消滅しないかぎり、他に何らの消滅原因は含まれていないのであり、また新憲法実施後勅令第五四二号を廃止するという法律が制定されたこともない。しかし乍ら、新憲法そのもの、すなわちその第四一条第七三条第六号第九八条第一項によつて勅令第五四二号は効力を失わざるをえない。それは間接に廃止されたのである。

(8)  新憲法は法律の制定については、国会を唯一の立法機関とするのであり、行政権単独による、法規制定については「この憲法および法律の規定を実施するため」の執行命令、委任命令たる政令の制定を認めているにすぎないのであつて、法律事項に関する法規の制定について、ほとんど無制限ともいうべき権限を行政権に委任することを内容とする勅令第五四二号のごとき政令の制定権は決してみとめていない。

新憲法の規定、根本原則よりすれば、広汎な委任立法はみとめない、新憲法自体のうちには旧憲法における緊急命令、緊急財政処分、戒厳令、非常大権についての規定の如き条規は全然存しない。勅令第五四二号の法的効力を存続せしめる憲法規定はない。

(9)  政府は勅令第五四二号の内容が広汎な委任立法であるから憲法に反するという指摘に対して、それは無条件の白紙委任ではなく、第一には連合国最高司令官の「要求ニ係ル事項ヲ実施スルタメ」第二には命令を制定することを政府が「必要アリト認」めるとき、という二つの制約があるから差支ないと説明している。しかし全く無条件の白紙委任が許されるかどうかということは、いやしくも法律上の論議として意味をなさない。それならば立法権の内容は零である。反対論の主張者は所謂特別委任に対して、一般委任ということを問題として、後者のみは許されないとしているのである。がしかし第五四二号の内容が殆んど無制限ともいうべき一般委任であり、それは新憲法において全く禁じられているのであつて、勅令第五四二号は違法である。

(10)  なお、昭和二十三年六月二十三日の最高裁判所の判決は「降服条項の誠実な実施は、降服文書に基く法律上の義務の履行であるから新憲法の条規に反するところはない」といつて、勅令第五四二号が、いまもなお有効であることを認めたが、これは国内法と国際法とを混同する粗雑な議論であつて、憲法のどこを見ても、このような議論をみちびき出す条項は、みあたらぬ。連合国司令官の「要求があれば迅速かつ誠実に履行することを要する。そのため急速に所要の法規を設けることを要請され、到底いちいち議会の協賛を経る手続をとることは不可能である」(同判決)とすれば憲法を改正して勅令第五四二号のような規定を憲法の中に挿入すべきである。連合軍によつて、勧告され指導された憲法のなかにこのような規定がないのは、連合軍が勅令第五四二号のような規定の必要を認めていない証拠であろう。なほ右最高裁判所の判決は銃砲等所持禁止令違反事件についてなされたのであるが、本件の如き事件においては最高裁判所も勅令第五四二号について、おのづから、右判決とことなる結論をみちびきだすことに違いないと確信する。

(11)  以上いづれの点から見ても、勅令第五四二号は新憲法下では無効の命令であるから、この無効の命令にもとずいてだされた政令第二〇一号も憲法に違反し無効なるものといわねばならぬ。

三、かりに勅令第五四二号が今日もなお、その効力を持続しているとしても政令第二〇一号は勅令第五四二号の要求する条件をみたしていないから憲法に違反する。

(1)  勅令第五四二号にもとづく命令にいわゆる「連合国最高司令官のなす要求に係る事項を実施する」場合でなければならない。しかるに、前記マツクアーサー元帥の書簡は、その書簡自体をみるも、またその後シーボルト議長の対日理事会における発言をみても、その他一般識者の見解をみても要求ではなくて、示唆であり勧告であることはあきらかである。しかるに、政府は右書簡を要求と曲解して政令第二〇一号を制定したことは違法である。

(2)  右書簡がでたのは七月二十二日であり、問題の全官公の争議権が発生するのは八月七日である。しかも直ちに争議がなされるとは限られていなかつた。このような点を見ると、国会を召集してその審議をうけることは十分可能であつたに拘らず、これをせず一方的に、しかも国内法において、すでに確定している争議権、団体交渉権を消滅せしめる政令を制定するのは、全く憲法の規定及び精神を無視するものである。勅令第五四二号の必要ある場合というのは国会を召集するいとまのないほどの緊急の場合をいうのであることは明かだが前記の事情ではその必要ありとはみえない。

四、政令第二〇一号は、その実質において憲法第二八条の国民の基本的人権を侵害する。憲法第二八条の保障する勤労者の団結権、団体交渉権など憲法第二五条の保障する国民の生存権に基礎をおく基本的権利は公共の福祉の理由で制限することができない。けだし生存権をおびやかすことほど公共の福祉に反することはないからである。だから憲法第二八条は第二九条のようにたゞし書をつけなかつたのである。また公務員は官公吏としての地位にもとづく権利義務もあるが、同時に国家または公共団体との間に雇傭関係があるから憲法第二八条にいう勤労者であることには異論はない。なほ極東委員会の「日本労働組合の十六原則」の(一)(二)(四)(五)等に政令第二〇一号は違反していることを附言する。

五、なほ、書簡の示唆した基本原則には、現業非現業の区別をみとめ現業は普通公職から除くこと、政府は政府職員の福祉のため十分の手段を講ずべきこと官僚制度を根本的に改革すべきことも含まれている。然るに政府はかゝる公務員の生活安定、福祉の保障の点については何ら緊急措置をとることなく、権利制度の点だけをきわめて独断的に実行した。この事はマ書簡の真意に背く一方的措置であることは第四国会に於ける給与審議の経過において明かにされている。これは政府が指令であるという声明を自ら裏切つているのであつて書簡の精神に違反する政令である。

六、以上の理由から政令第二〇一号は当然無効であつて第二〇一号違反を理由とする被告の解雇処分は違法なる行政処分として取消さるべきである。なほ政令第二〇一号は「国家公務員法の一部を改正する法律」の附則(昭和二三、一二、三法二二二)第八条第一項により公布の日より効力を失つたが同法第二項において、「前項の政令がその効力を失う前になした同令第二条第一項の規定に違反する行為に関する罰則の適用についてはなほ従前の例による」としているので、政令によつて原告等が不利益を受けた事実は消えることがないので、なほその無効確認を求めうるものである。尚仮に政令第二〇一号が有効であるとしても原告山本同加藤には右政令第二〇一号に違反する該当事実はないのみならず、国家公務員法第八五条(改正前)には刑事裁判所に繋属する事件を理由として解雇処分をする場合には裁判所の判定を俟たねばならぬ旨規定されているが、原告山本同加藤は昭和二十三年九月二十四日より同月二十六日迄の清水郵便局内の組合活動について静岡地方裁判所において審理を受けつゝあり、罪名は強要罪であるが公判請求書には政令第二〇一号に関係あるものとされているので、政令第二〇一号違反を理由として解雇するにはその判定を待たねばならぬ筋合であるからこの点からも被告のなした解雇処分は不当であると述べ

被告の答弁に対して原告山本昭一は本件発生の九月二十四日は、当時認められていた慰労休暇を採り、局長の許可を得て同日静岡市内に於て開催中の全逓静岡地区本部委員会に貯金保険課勤務の山内鐐一と共に清水支部代表として出席していたのであつて、同日に関する限り絶対に同人の職場離脱等の責任は存しない。

更に二十五日、二十六日は同人が貯金保険課、窓口にて振替支払事務を滞りなく執つていたのであつて、これは二十五日の払戻簿の記載によつても明かである。又原告加藤哲夫は清水郵便局庶務課厚生係事務員であり、直接通信事務に関係ない業務にたづさわつて居る者である。従て当時机に向つて事務を採るということではなく組合員の共済関係事務及び交渉、厚生物資配給等を担任して業務の性質上、自己の席を離れることが多く又、組合員の厚生のため、局長と交渉するのは、同人の通常事務の一部に属するといひ得るものである。同原告は九月二十四日午前九時頃より通勤パス支給の問題にて出口清水郵便局長のところへ交渉に行つていたがこれは政令第二〇一号の「陳情」であつて正当なるものである。清水郵便局長出口工は政令第二〇一号が公布せられるゝや、従来の労働組合法、労働関係調整法等によつて保障された代表を通じての、即ち組合執行機関の団体交渉は否認されたと争議権のない組合をみくびつた露骨な態度を示した。よつて組合員は旧来の幹部依存主義的傾向を打破せざるを得ざるに至り、一人一人自覚して立上り、その職場における身近な問題を採り上げて各人が闘える形で闘ふといふ各自の力に応じて官側に対して組合員の各々の責任に於て活動するといふ政令第二〇一号但書に保障されている交渉に自然に出て行つたのであつて、決して原告両名も原告組合も計画的に被告主張のような闘争方式を採用して実践に移したものではない。之を要するに原告山本、加藤等には何等政令第二〇一号逓信部内雇員規程に該当するような所為はなかつたものであると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め答弁として、原告主張事実中原告山本同加藤が清水郵便局勤務の従業員であり、且全国の逓信従業員をもつて組織する全逓労働組合清水郵便局支部の組合員であること及被告が昭和二十三年十一月一日附をもつて、原告山本同加藤を昭和二十三年政令第二〇一号並逓信部内雇員規程により解雇したことはみとめるが其の余の事実はすべて争う。原告等は政令第二〇一号の無効確認を求めるが右訴は裁判権に属しない事項について裁判を求める不適法な訴である。およそ三権分立の下においては、裁判所はあくまで司法権を行使するのであつて、司法権とは争のある具体的事件に対し抽象的且観念的な規範である憲法、法律、政令その他の法規を適用する判断作用たる権限であり、憲法第七十六条第一項にいう司法権も正にこの意味である。従つて裁判所法第三条第一項が「裁判所は日本国憲法に特別の定めのある場合を除いて、一切の法律上の争訟を裁判する」というのも、具体的事件に関しない単なる抽象的な法理や法則を裁判するということでなく、具体的な事件があつてこれを前提対象として憲法、法律、政令、その他の法規を適用して判断さるべき争訟即ち具体的事件について訴訟手続を経て、何が法であるかを判断し宣告する作用をいうのである。司法権が以上の如き権限である以上、日本国憲法第八十一条による裁判所の違憲法規の審査権も亦その法規が具体的事件に関して適用される場合において、始めてその具体的事件に対する裁判を通じて行われるものであつて、具体的事件を離れ単に抽象的又は仮定的に行われるものでない。従つて裁判所に対して、憲法、法律等に違反する法規命令自体が無効だと主張する場合には、これを前提とする行政行為の取消の訴を提起すべきでその法規、命令自体の無効確認の訴を提起することは不適法であり、又裁判所は、法規が憲法に違反すると判断した場合においても、その法規自体の無効宣言又は法規の制定行為の取消をする権限を有するのではなく、その法規の適用される具体的な法律行為又は法律関係の無効宣言又は取消をする権限を有するに過ぎない。されば本件において裁判所は法規である昭和二十三年政令第二〇一号の無効宣言をする権限がないから、之が無効確認を求めるのは裁判所に属しない事項について裁判を求めるもので不適法である。而して仮に裁判所に対し政令第二〇一号の無効確認を求めうるものとしても政令第二〇一号は国の制定に係るものであるから、国を相手方とすべく、本件被告らは被告としての当事者適格なく、従つて請求は棄却さるべきである。

次に政令第二〇一号の基礎をなす昭和二十年勅令第五四二号は新憲法下においても、なお有効に存続するものであることについては、すでに最高裁判所の判例も存するところであるから、之に反する原告の所論はすべて排斥せらるべきものである。

次に原告らは改正前の国家公務員法第八十五条によつて、懲戒に付せらるべき事件が刑事裁判所に係属する間は懲戒の手続を進めることができないのであるから、被告が裁判所の判決をまたずして懲戒処分をなしたことは不当であると主張するが、改正前の国家公務員法第八十五条は同法附則第一条第一項の規定により昭和二十三年七月一日より施行されたものの、同第三項の規定により当時未だこれが適用されていなかつたものであり、従つて当時にあつては、官吏その他の政府職員の任免、休職、懲戒その他身分上の事項については、昭和二十二年三月二十一日法律第百二十一号(改正昭和二十二年法律第二百十五号)「国家公務員法の規定が適用せられるまでの官吏の任免等に関する法律」の規定により従前の例によることとなつていたものである。しかも右国家公務員法と同趣旨のことは官吏懲戒令(昭和二十三年十二月三日廃止迄有効)には規定されているが、雇員についてはかゝる規定がなく、原告らは雇員であるから、この点については全く問題の生ずる余地がない。

なお、叙上の根本的事由のほか、原告加藤同山本に対する本件懲戒免職処分は昭和二十三年十月一日附で之を行つたものであるのに対し、原告等は、同年十月十一日起訴されたものであり、従つて懲戒免職処分は起訴前、即ち事件が刑事裁判所に係属する前にこれをなしたものであるから、何等原告等主張の如き制約を受けない。次に又被告は原告等の政令第二〇一号に牴触する行為をもつて懲戒に付せらるべきものと認定し、政令第二〇一号及び逓信部内雇員規程により懲戒免職の手続をとつたものであるが、検事はこれとは別箇の強要罪に該当する行為をとり上げて起訴したものであり、原告等に対する関係において懲戒に付せらるべき件と刑事裁判所に係属した件とは別箇のものであつて、問題は生じない。

或いは政令第二〇一号違反であるか否かはすべて裁判所の判定によるべきであつて、それ以前に行政庁が政令第二〇一号違反を理由として免職処分をすることができないと言う者あらんも、それは政令第二〇一号第二条第二項の解釈を誤つたものである。即ち同条同項は同条第一項に違反する行為をなしたときは、国に対しその保有する任命又は雇傭上の権利をもつて対抗することができないと規定されているが、このことは任命権者の認定によつて行政処分により公務員たる身分をはく奪されることがあることを前提としているものである。行政処分をなす場合の認定が行政権にあることは勿論のことであつて、それが司法権の認定を要するということはあり得ない。

以上の如く被告は正当の手続によつて、原告山本同加藤を以下に述べるような事実に基いて免職処分に付したものであるから右免職処分は毫も違法ではない。すなわち原告加藤は清水郵便局庶務課厚生係事務員であり原告山本は同局貯金保険課勤務事務員であるが前者は全逓労働組合清水郵便局支部執行委員兼共闘部長、後者は同支部執行委員兼建設班長青年部長となつて、夫々同労働組合支部員と共に組合活動の闘争方式として一人一要求を目標として、給料其の他給与問題、休憩時間附与その他全部で十六項目の要求を同年九月十一日以降連日清水郵便局長に対して要求し続けて来た後臨時職場大会を開催して、右労組支部委員が中心となり共同して更に強力な闘争を実践せんと相謀り、原告等は相互共同意思の下に同月二十四日午前十一時頃から前記の如くその要求に関し同局長と交渉を開始し、該交渉中同局電話加入者と称する約十名の一団が同局長の許に電話事務に関し苦情を申入れて来るや、その際先づ原告加藤次いで同山本は共に職場を離脱し来つた同局電話課従業員十数名と意を通じて多衆と業務抛棄の威圧を加えつゝ、同日午後七時頃迄の間同局長室或は電話課長室にて前記要求を繰り返し、同局長の再三に亘る職場復帰の命令にも拘らず居坐つて要求をつづけ怠業し、そのため同日長時間に亘つて同局電話業務の運行を停頓阻害せしめ、更に同月二十五日原告らは同局正門、裏門の出入口を監視せしめ置き、部外組合友誼団体員数十名が同局電話交換室に侵入し応援気勢をあげる機に乗じ局長室及電話交換室に於て同局長その他の関係公務執行者に対し強要を伴う交渉要求を続けつゝ、同日午後二時頃より十一時頃迄九時間の長きに亘つて同局電話業務の正常な運営を阻害したものである。

よつて右の事実に基いて被告は政令第二〇一号、逓信部内雇員規程により右原告両名を懲戒免職処分に付したのであると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告等は昭和二十三年政令第二〇一号の無効確認を訴求するから先づ右訴の適否について考察する。

新憲法の施行と同時に施行せられた裁判所法第三条には、裁判所は日本国憲法に特別の定めある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定めた権限を有することを規定し、憲法の精神に基き従来の民事、刑事の外行政事件もすべて原則として裁判所の管轄に属すべきことを明かにした。しかし元来司法権は権利義務に関する法律上の争訟について法律の適用を確保すべきことを使命とするのであるから、行政上の事件についても司法権の裁判に服するものは、法律上の争訟に限らなければならない。而してここに法律上の争訟と言うのは、法律の適用によつて解決せらるべき当事者間における具体的な利益の紛争乃至は利害の衝突による事件、換言すれば当事者間における具体的な権利義務に関する争があり、具体的な法の適用が争になつていることを言うのであつて、何等具体的な原因がないのに拘らず一般的抽象的に、ある法令自体の効力乃至解釈を争うことは具体的な権利義務に関する争訴、すなわち右に言う法律上の争訟に該当せず従つて裁判所の権限に属しないものと言わなければならぬ。

ところで本件において、原告等がその無効を主張する昭和二十三年政令第二〇一号が直接に原告等個人の権利を侵害する具体的な内容を、もつたのではなく、一般的抽象的な規範であることはその規定自体明瞭であるから、前記の理由により右政令の無効確認を求むる訴は裁判所の権限に属しない事項を目的とする不適法な訴として却下せざるを得ない。

(二) 次に原告等は被告のなした解雇処分の効力を争い、右解雇は無効であると主張し、被告が原告主張の如き理由により原告山本同加藤を解雇処分に付したることは被告の認めて争わないところであるから、以下原告主張の無効理由の当否について逐次判断する。

(イ)  先づ原告等は右解雇は昭和二十三年政令第二〇一号及逓信部内雇員規程によりなされたのであるが、右政令第二〇一号の根拠法令たる昭和二十年勅令第五四二号は新憲法の施行と同時に当然失効したから、右政令第二〇一号もその根拠を失つて無効に帰し従つて解雇処分も無効であると主張する。

しかし乍ら勅令第五四二号は緊急勅令ではあるが、昭和二十年十二月八日貴族院に於て、同月十八日衆議院に於て夫々承諾を得たから、爾後それは法律と形式的効力を同じくするに至つたのである。而して明治憲法時代の法律が新憲法の規定に違反しない限り、新憲法の下に於てもひきつゞき効力を有することは憲法第九十八条の規定によつても明らかなところであつて、昭和二十二年法律第七十二号の「命令」は、もちろん行政権のみによつて制定せられた命令を指称し、議会の承諾を得た緊急勅令はまつたく法律として取り扱われるのであるから、右勅令第五四二号は前記法律第七十二号とは無関係に新憲法下に於てもその効力を有するものと言わなければならない。

(ロ)  次に原告等は右勅令第五四二号は法律事項に関する法規の制定について殆んど無制限とも言うべき権限を行政権に委任することを内容とするものであるから、かかる広汎な委任立法を認めない、新憲法下に於ては当然無効であると主張する。けれども、成程三権分立の精神から考えて、立法権を全面的に行政機関に委任するいわゆる白地授権は許されないこと勿論であるが、本件勅令第五四二号は連合国最高司令官の要求にかゝる事項を実施するために特に必要がある場合に限つて命令に委任しているもので、単純な包括委任ではない。

しかして、これについては我が国が現在おかれている特殊の地位を考える必要があるので、昭和二十年九月一日の降伏文書に明かなように、天皇及び日本国政府の国家統治の権限は本条項を実施するため適当と認める措置をとる連合国最高司令官の制限の下におかれ、また天皇、日本国政府及びその後継者は連合国最高司令官又はその他特定の連合国代表者が要求することあるべき一切の命令を発し、かつ、かゝる一切の措置をとることが定められ、連合国最高司令官の要求はそのまゝ迅速かつ誠実に履行すべき国家的義務を負担している。この場合、要求の内容が法律を要する事項であれば、国会によつて法律制定の手続をとることを至当とするが、要求の内容によつては時間的事由などにより、それが不可能な場合もあるので国会の承認を得たこの勅令において委任の措置が残されているのである。従つてこの委任による命令は、連合国最高司令官の具体的な要求にかゝる特定の事項を実施すべき国家的義務を履行するためのもので、行政機関の恣意により立法権を侵害することにはならないから、この勅令は新憲法の下においても有効と断ずべきである。

(ハ)  次に原告等は右勅令第五四二号が今日もなおその効力を持続しているとしても、政令第二〇一号は勅令第五四二号の要求する条件をみたしていないから憲法に違反すると主張する、しかし、連合国最高司令官のいわゆる要求は別にその形式が一定しているわけではなくその要求であるか否かは、一に同司令官の表示された意思の解釈で決まり書簡であるか否かによつて決せられるものではない。而して右司令官の意思の最終的有権的解釈権は同司令官に専属するものであるところ、当時政府は右書簡の内容を十分検討し、かつ司令部の意向を確かめた上右政令を発するに至つたことは昭和二十三年九月三日の閣議決定により、鈴木法務総裁談話の形式で発表せられた政府声明及び昭和二十三年八月三日渉外局特別発表を以て公表せられた総司令部民政局公務員制度課長フーヴアー氏の「日本政府とその使用者との間に急速に悪化している情勢の下において一種の秩序を回復するためマ元帥はやむなく仲裁に入らなければならなかつた。政府使用者は八月七日を期してストライキを宣言したが、かかるストライキは日本の困窮した現状にあつては国民大多数に飢餓と災害とをもたらさずにはおかないものである。七月二十二日マ元帥の芦田首相にあてた書簡にみえる意図とこれに基いて公布された政令は政府と公務員との関係を完全に米国の政策と慣行とに一致させることを目的としたものである」と言う談話要旨(以上いづれも公知の事実である)によつて、マ書簡が「要求」であることが明かであり、従つて政令第二〇一号が右要求に基き制定されたものであることを窺知するに十分である。

尚政令第二〇一号制定当時に於ては全官公の八、七ストライキによる国民大衆の飢餓と災害とを防止することが緊急の問題となつており、而も、国会の審議を経る余裕がなくポツダム勅令にいわゆる「特に必要ある場合」に該当する社会情勢にあつたことも亦、公知の事実であるから右政令第二〇一号はその制定当時発布の要件を具えていたものと言わなければならぬ。

更に原告等は右書簡においては現業非現業の区別をみとめ、現業は普通公職より除くことゝなしているに拘らず、之を無視して前記政令を制定したのはマ書簡の精神に反するものであると主張するから、この点につき考察するに右マ書簡において公務員について現業非現業の区別をみとめていることは明かであるが、さればと言つて右書簡が現業職員等をして公務の本質から生ずる種々の制約を免れしめる趣旨を認めたものではないと考うべきであり且この区別は、それらの政府事業が、マ書簡の所謂公共企業体に組織された後に採用せらるべきものであつて、それまでは、暫定的措置として従来通り、それ等の政府事業に従事する者に対し、一般の公務員と同様の取扱をすることは、やむを得ないところと言うべきだから結局現業員たる公務員を右政令より除外しなかつたことを以てマ書簡の精神に反するものと論ずることは出来ない。よつて此の点に関する原告等の主張はいづれも理由ない。

(ニ)  次に原告等は右政令第二〇一号はその実質において憲法第二十八条の国民の基本的人権を侵害するもので無効であると主張するから、按ずるに公務員が憲法第二十八条に規定せられる勤労者の中に包含せられることは容疑の余地のないところであるが、凡そ公務員は国民全体に奉仕する義務を負担する以上憲法第二十八条の規定する勤労者の団結権、団体交渉権、争議権は国民大衆の共通の利益としての公共の福祉に反してまで無制限にこれを主張することは到底許されないところであつて、公共の福祉を保持するため右権利に制限を附せられるのはけだし、やむを得ないところと言わなければならない。而して公務員が争議を行うときは直ちに国家乃至公共団体の機構の運営殊に食糧、治安、運輸通信と言う如き直接国民の生存の維持にかゝわる業務を一挙にして危殆に瀕せしめ、国民全般の生活に重大なる脅威を与えることは明かであつて、国民大衆にかゝる重大な結果を及ぼすことは如何に生存権の保障のための権利とは言え、国民全体の奉仕者たる公務員の性格と到底相容れないものと言う外ない。従つて政令第二〇一号が公務員の争議権を否定したことをもつて違憲なりと断ずることはできない。

(ホ)  ところで原告等は原告加藤、同山本両名については何等政令第二〇一号に牴触する所為はなかつたと主張するからかゝる事実の有無につき考察するに、原告加藤、同山本の両名がいずれも清水郵便局勤務の逓信従業員であり、又全国の逓信従業員をもつて組織する全逓信労働組合清水郵便局支部の組合員であることは当事者間に争ない。而して成立に争ない乙第一号証同第二号証の一、二同第四乃至八号証同第十二号証の一乃至四同第十三号証の一、二同第十四号証及証人出口工、久野忠雄の各証言を綜合して考察すると、原告組合支部は昭和二十三年八月初旬頃より青年部婦人部より成る建設班を中心として、一人一要求の職場要求を行動形式とする所謂傾斜闘争を標榜して同年九月十三日建設班蹶起大会を開催し、清水郵便局長出口工に対し一、家族二・五人を有する職員に最低賃銀月額八千百二十五円を支給すること、二、電話交換手に一時間につき十五分の休憩時間を付与すること、三、通勤パス全額を支給すること、四、被服、雨具、上草履を支給すること等十六項目に亘る待遇改善に関する要求をなすことを決定し、同月十四日頃より同局長に対し各職場毎に殆んど連日繰返して、右項目を受諾するよう交渉し来つたが、更に同組合は同月二十日臨時職場大会を開催し、一人一要求の闘争方針を確認して友誼団体の応援を求めて組合活動を強力に推進し目的の貫徹に邁進することを決議した上、同月二十四日局長室に於て右原告両名は他の組合員数十名と共に、電話加入者と自称する多数の部外者等の応援を得て同郵便局の出入口にいわゆるピケツトラインを敷き、部外者の立入りを遮断しおくと共に局長に対し強硬に待遇の改善方を要求し、同局長に於て即答し難き旨答えるや、同人を取巻き口々に怒号し或はスクラムを組んで室外に立ち出づることの出来ないようにして回答を強い、ついに同局長をして困憑の末、「労務を強化させないこと」及び「明日午前九時より会見に応ずること」を承知せる旨の確認書を作成交付せしめた。その間同局長がしばしば原告ら組合員等に対し職場復帰を命じたに拘らず、組合員等は之に応ぜず又右交渉中電話課職員十数名は職場を離脱したため、数時間に亘り連合軍及報道関係を除いて電話線は全部不通となつた。

更に同月二十五日名古屋逓信局電話課業務課長久野忠男が清水郵便局の電話疏通状況、服務状態調査のため清水郵便局に来局するや原告加藤、山本等は他の組合員等多数と共に電話交換室において同人を取囲み調査資料の開示を要求し、之を同人の手より取上げ調査不能に陥らしめると共に、今次の争議が労働条件の劣悪のため発生したるにより、その原因を調査するが肝要なりと強調し、且組合員等の要求通り調査復命すべき旨の確認書を要求し、また同局労務課係員緑川雅春に対しても同様要求し、更に同日局長出口工に対して前同様強硬に待遇改善に関する交渉を続け、組合の要求に係る地域給生活給八千百二十五円は妥当とみとめ、その実現に努力する旨の確認書の作成方を強要し翌二十六日午前三時頃迄の間に夫々右三名等よりその旨の確認書を作成交付せしめるに至つたことを認めることができる。

右認定に反する乙第九号証乙第十号証の一、二の各証人供述記載部分は信用し難く原告の挙示する証拠によつては未だ右認定を覆すに足りない。

以上認定の事実に徴すると原告加藤、同山本の両名は原告組合支部の一員として他の組合員等と相互共同意思の下に労働条件の改善を図るため争議手段として前記の所為に出でたるもので、著しく業務の運営を阻害し正しく政令第二〇一号第一項に違反するものと認むるの外ないから、右原告両名の政令違反の所為が逓信部内雇員規程第二十八条に該当するものとなすに十分であると言わなければならない。

原告等は本件については別に刑事々件として審理をうけつゝあるにより、政令第二〇一号違反を理由として解雇するには改正前の国家公務員法第八十五条により刑事々件につき裁判所の判定を待たなければならぬ筋合であるに拘らず、その判定を待たずになしたる本件解雇処分は不当であると主張するけれども、成立に争ない乙第九号証第十号証の一、二及本件弁論の全趣旨を綜合すれば原告山本同加藤は昭和二十三年十月一日附にて解雇されたる後に強要罪にて起訴公判に附せられたること、即ち右解雇処分は刑事々件が刑事裁判所に係属する以前になされたものであることを窺知しうるから何等改正前の国家公務員法第八十五条の規定に牴触しないこと明かである。よつて原告等の右主張も、また理由ない。

上来説示の如く、本件解雇処分は適法であるから右解雇の無効確認を求むる為本訴請求は失当として到底棄却を免れない。

よつて訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条第九十三条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 戸塚敬造 岡田辰雄 小河八十次)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!